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: 確率過程のシミュレーション : 微分方程式 : 微分方程式の数値解法(オイラー法)


`場'と偏微分方程式

第1章でも述べられているように, 現代物理学で最も基本的な概念は「近接作用」と 「場」 13の考え方である。 場というのは,任意の時刻および位置で, 定義される物理量で, 電磁気学における「電場」や「磁場」 14が代表例である。 4.4.1 では話を簡単にするために直線上の運動を考えたので, 物体の位置を定めるのに一つ(一次元)の座標が必要であったが, 一般には,位置を定めるのに縦$\cdot$$\cdot$高さといった 三つ(三次元)の「座標の成分」が必要となる。 したがって, 「電場」や「磁場」のような場の量は, 一般に,時刻と位置座標の三つの成分を併せて, 四つの変数に依存することがわかる。 場というと難しく聞こえるかもしれないが, 身近な例では,天気予報で示される気圧配置図を思い出してほしい。 気圧配置図というのは, ある時刻に気圧の等しい地点を結んだ「等圧線」を示したものである。 つまり,気圧配置図はある時刻の各地点の気圧を示しているので これは「気圧の場」を二次元的に表現したものといえる。

多変数関数(変数の個数が二つ以上の関数)において, ただ一つの変数のみを変化させて,その変数について微分する, つまり,「偏導関数」を求めることを「偏微分」するという。 偏導関数は ([*]) で定義した導関数の自然な拡張となっていて, 例えば,「$x$$y$ の二変数関数 $f(x,y)$$x$ についての偏導関数」は

\begin{displaymath}
\frac{\partial f(x,y)}{\partial x} = \lim_{\Delta x \rightarrow 0}
\frac{f(x+\Delta x, y) - f(x,y)}{\Delta x}
\end{displaymath} (23)

と定義される。 偏導関数に関係する方程式は「偏微分方程式」と呼ばれている。 力学をはじめ,電磁気学,量子力学,流体力学など, 物理学の基本法則の多くは偏微分方程式で表されているので, 物理学上の問題の多くは,結局,偏微分方程式を解く問題に帰着する。

場の偏微分方程式を数値的に解くには, 常微分方程式を数値的に解くのと基本的には同じアイデアを用いればよく, ([*])式を導入したときと同様に「微分」を「差分」で近似すればよい。 力学の問題では位置や速度などの物理量が $t$ のみの関数であったので, 時間だけを離散的に考えたが,場の量は位置にも依存するので, 場の偏微分方程式を差分方程式に近似するには, 時間を離散的にとるだけでなく, 空間についても格子に分ける必要がある。

場の偏微分方程式を数値的に解く問題として比較的身近なのは, 天気の「数値予報」であろう。 数値予報というのは, 大気循環や気温変化などのモデルを「流体力学」や「熱力学」に基づいて導入し, 観測値を初期条件にして未来の気象を予測するものである。 数値予報に用いられるモデルは, 基本的には流体力学や熱力学の基礎方程式である偏微分方程式をもとにしていて, 日本付近の局所的な比較的詳しいデータをもとにした短期予報を 目的にしたものから, 全地球的な長期予報を目的としたものまでが開発されていて, 更に改良が試みられている。 日本国内の気象観測データは地域気象観測システム「アメダス」により 収集されている。 アメダスというのは, 全国約1,300の地点に設置された無人自動観測所から毎正時に電話回線を通じて 雨量,風向,風速,気圧,温度などの観測データを収集するシステムのことで, 集められたデータは天気予報の基礎データなどとして利用されている。 毎日の天気予報は, 現在でも最終的には予報官の経験と勘に頼らざるを得ないようであるが, 予報官は数値予報が出す客観的なデータを重要な参考としており, 台風の進路予報など, 近年の天気予報の精度の向上にたいする数値予報の役割は非常に大きいものといえる。



tamari@spdg1.sci.shizuoka.ac.jp 平成14年2月12日